お口周りの課題を「窒息や誤嚥を防ぐ」という目的で考えるダウン症候群口腔ケアフォーラム、今回は言語聴覚士としての立場からパネルディスカッションで発表された先生のまとめをお届けします。
この記事では
- 丸呑みの原因
- 噛むための準備
- 噛む力をつけるためにすべきこと
がわかります
~摂食機能と食行動・食環境から考える~
児童発達センター うめだ・あけぼの学園 言語聴覚士 高倉 めぐみ先生
どうして丸呑みしてしまうの?
丸呑みの原因には、咀嚼機能が未熟な段階で、噛む必要がある食べ物を食べて(与えて)いる場合があります。
子どもの摂食行動パターンから原因を探ってみると…
- 咀嚼可能な生歯、歯列、咬合状態ではない
- 舌が大きすぎて動かせるスペースがない
- 感覚が嫌だ(触覚…痛覚・温冷覚・触圧覚、味覚、嗅覚、固有覚)
- 無理やり飲み込んでしまう(食べることが好きor嫌い、早く飲み込みたい・噛むのがもどかしい、バラけないうちに飲み込む など)
- どんな硬さのものでも飲み込める、丸呑みの快感
- 姿勢が不安定
介護者の気持ちによる原因を探ってみると…
- 月齢がきたから 噛むことを教えるために
- 口が閉じにくいから、食べ物を口の奥に入れてしまう
- 柔らかい食べ物を好まないから 大人と同じものを欲しがるから
- 噛んで欲しい、好き嫌いせずにいっぱい食べて欲しいための言葉かけや介助(ひとくち量が大きい、詰め込み、ペースが早い など)
食環境の課題が隠されている場合もあります
- 空腹感の欠如(生活リズムが不規則、運動量不足、刺激が少ない生活)
- 集中しない 食べることに興味がない 拒否している
視覚・聴覚・嗅覚・室温など、環境的に集中できない
おしゃべり好き、 話しながら食べる - 楽しい食事になっていない
コミュニケーションをせず、ひとりで食事に集中
毎食毎食、しっかり食べることが求められる 適量より多い食事量
「たくさん食べて欲しい!」という親心が丸呑みを誘発していることもあるのですね!
噛むための準備をしましょう‼
食べ物を口唇で取り込む
- スプーンをまっすぐ入れて、まっすぐ抜く
- 食べ物を口の奥に入れず、前方で取らせる
- 出ている舌を口腔内にスプーンで押し込むようにいれる
押しつぶす機能を獲得する
- 舌と口蓋でつぶせる硬さ…豆腐・カブ・かぼちゃなど
- まとまりにくい食べ物には、とろみをつける
- 口から押し出してしまう場合は、やわらかくしたり潰したり小さくしたり食形態を変えてみる
- 与えるスピードやタイミングにも配慮
きちんとした安定した姿勢を作る
- 頭部の安定、頭が少し前傾した安定した姿勢(姿勢のコントロールやオーラルコントロール)
姿勢については作業療法士の先生のお話に詳しいです。
噛む力をつけましょう‼
食形態の調整をしましょう
食事がゆるすぎると噛む必要がなくなります。
また、細かく刻みすぎると口の中で押しつぶせずにバラけてしまいます。
発達段階に合わせた食形態を用意しましょう…発達段階に合わせて、潰れやすい・口の中で溶けやすいもの→簡単にかめて唾液と混ざりやすい塊→コロコロのもの など
口から出ししまったり、丸呑みをしてしまうのは「噛めない」からです
やわらくする、押しつぶして与える、またはまだ与えない。
*スパゲティよりマカロニがオススメ
普通食の場合は咀嚼力を高めるために
せんべいのようなパリパリした「堅い」もの、肉などクチャクチャする(弾力性のある)「硬い」もの などをいろいろなタイプの「かたいもの」を体験。
歯や歯茎に気づく、使うためにトライ
咀嚼するべき食べ物を与えても、舌が口腔内で左右に動かない場合に
- 箸で食べ物を奥歯(歯が生えてないときは歯茎)に乗せる
息子のときは、5cmくらいの長さのうどんを(奥歯の)歯茎に乗せました
- 潰れやすい、口の中で溶けやすいスティック状のもの
柔らかく煮た人参スティックや、スティックご飯など
- 肉など噛みしめることで味が出てくる食べ物を、噛むのに手頃な細長い大きさで、大人が端を持って上下の奥歯に挟み込んでかませる
喉に詰めたり丸呑みしないように、必ず大人が端を持っていてくださいね
噛みちぎるスキル獲得のために
前歯でかじり取ることで、食べ物の感覚や大きさ、量、硬さを歯根膜が感知し、臼歯に運んで咀嚼する動きが引き出されます
- 指で潰せるくらいの硬さのものを前歯でかじらせる
イチゴ、よく煮た大根、人参(部位による)
*硬いもののほうが、噛みちぎりやすいお子さんもいます - スティックの食材は、適量になるように予め切れ目を入れておく(人参スティックなど。)
- 噛みちぎりの経験をさせる。
つい、ひとりで食べられるように一口大に切って与えてしまうので、噛みちぎりの経験が少なくなりがちですよね。
噛みちぎれる食材があるときには、大きいままあげるのもよいそうです。
普通食を食べているお子さんの場合
中途半端な大きさだとひとくちで入れ込んでしまいやすいので、骨付き肉や干し芋、2センチカットのとうもろこしなどひとくちに入らない大きさがオススメです。
失敗させないことが大事です!
食べるのがうまく行かないことで、口に押し込んでしまったり、逆に食べなくなってしまうこと(好き嫌い)も。
介助をしながら噛みちぎる練習をする(できれば一緒に手を持って)ことでうまく成功させることがポイントです。
詰め込まない
詰め込むと舌や下顎のセンサーがうまく働かず、噛むべきものなのか噛まなくて良いものなのかが識別できないまま丸呑みしてしまいます。
口の中にいっぱい入れてしまうと、唾液と食物を混ぜ合わせることができず食塊を作れなくなってしまいます。
詰め込んでしまう原因は…
- 食欲旺盛 食べることが大好き!お腹すいた! 早食い
口を大きく開けて、適量以上の食べ物を口に押し込む - 咀嚼機能がまだ未熟な段階で自食を始めてしまった
スプーンや箸で掻き込む - うまく噛みちぎれない
- スプーンが大きい
- 感覚運動の体験不足
手ー物ー口の協応 手づかみ食べ - うまく操作できず量の加減ができない、うまく口に入れられない
- 口腔が小さい、筋肉の低緊張、適度な緊張を維持することが難しい
口の中にいっぱい入っていないと、食べ物が入っている感じがしない - 良い姿勢を保てない
- 目が悪く、よく見えない
- 介助者の気持ち…「早く食べて欲しい」「たくさん食べて欲しい」 詰め込み、ペースが早い
- 適切なひと口量を知る
噛みちぎり
別皿でひと口ずつ取り分けて与える
子どもの舌幅より少し小さめの 適切な大きさのスプーン - 水分で流し込まない
- 食器から口に運ぶ
机と椅子の高さの調整 (口と食器が近すぎない)
前傾姿勢にならない - 操作性の向上
手づかみ食べで自分の適量を学ぶ
目と手と口の協応動作、手指の操作性を高める
食べる意欲を育てる
意欲がないと口の動きが緩慢になったり、止まったりしやすいです。
食べる食材に偏りがあると摂食機能も育ちにくいです。
気にしておきたいことは…
- 空腹感
- 好き嫌いや偏食への適切な対応
- 食内容や食事量の調整
- 食環境への配慮
一緒に食べる、集中しやすい環境、いつもと違う雰囲気・楽しさ
食具や食器、食事場所、盛り付け、姿勢 - 楽しい食事
コミュニケーション、食に関するやり取り
- 発達全体での意欲の促進、満足感や達成感
- 子どもの心身の成長を待つ、信じることも大事
食べて欲しいがためにする言葉がけで、親も子も疲れてしまっていませんか?
完食しなくても、状況によっては「ごちそうさま」にしてしまってもOK!
30分程度の食事で切り上げてしまって良いそうですよ!
まとめ
先生が働かれている児童発達センターで出される給食の食形態の例を画像でご紹介いただいたので、視聴された方にはイメージしやすかったと思います。
また、うまくおしゃべりできない段階でのコミュニケーションのとり方の例(「おかわり」「もういりません」などの絵カードや声掛け例)など言語聴覚士として食を通じて「喋ることを育てる」アプローチの仕方もご紹介いただきました。
丸呑みを防ぐために発達段階に合わせた食形態が重要であることは、言語聴覚士としての立場からでも強調されていました。
発達に合わせた食形態は、神奈川歯科大学の小松先生も強調されていたことです。分野が違っても重要な点は同じ。
急がず、焦らず、しっかり噛む習慣をつけることが「丸呑み・誤嚥事故」を防ぐ唯一の手立てなんですね。
私個人として印象的だったのは、家庭の環境や食事時の環境が丸呑みにも影響する、ということ。
「楽しい食事時間」が食べるスキル、食べる意欲につながるというのは興味深かったです。